ネットに影響される人の日記

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影響されたり、観たり、聴いたり、食ったり。

映画2023年2月

2月が終わりました。1月分はこちらです。

htnmiki.hatenablog.com

 

2月の家計簿を締めていて「おっ、今月の支出は少ないな、節約できてるな」などと思ったバカはどこのどいつだい? あたしだよ! 数日少ない2月はあっという間ですね。既に花粉祭りは始まっており映画鑑賞中にくしゃみが出ないように集中して神経すり減らしていますがそんなんじゃ映画を楽しむどころではないので杉を焼き尽くせ。というわけで2月分、行ってみましょう。

 

7. SHE SAID/シー・セッド その名を暴け
冒頭2分でこれはヤベー映画だとわかります。ハーヴェイ・ワインスタインによる長年の性暴力事件を描いた作品です。#metooの端緒になったこの事件はあまりに下劣で本作では映像での具体的な描写はほとんどないものの被害者たちの証言だけでも吐き気をもよおすには十分すぎるおぞましいものでした。なお1箇所だけ実際の被害現場の録音が流れますがマジでクソなのでご注意を。中盤に決定的な資料を提供してくれた元アシスタントが証言する中で慎重に言葉を選び具体的な単語を使わずに話していたのに次第に感情を抑えきれずにレイプという言葉を使った場面は震えてしまった。示談に応じた被害者たちは事件について口外しない秘密保持契約がセットでありオフレコでしか話せない中で本人役で出演しているアシュレイ・ジャッドが決断したことは他の被害者たちを勇気づけたことだろう。示談の場合に弁護士は示談金の一定割合が報酬となるため仮に被害者に戦う意志があっても示談をすすめるという状況も酷い。あらゆる仕組みが性暴力の被害者に不利なのは権力者の顔色を伺うことしかできないと思いこんでいる我々の責任でもある。という感じで性暴力に対する憤りを書いてる自分はどうかというと「私はこんなことをしていない」と断言できないのが辛いところ。していないはずだがそれは私の主観でしかないので。日本の映画界や演劇界でも度々告発者が現れその都度加害容疑者たちはそんなつもりはなかったと言うが本作を見てもそう言うんだろうか。言うんだろうな。そういえばキャリー・マリガンは以前はほんのり苦手だったんだけど歳を重ねて角が取れたというかしみじみ良い役者だった。キャリー・マリガンのバディ役のゾーイ・カザンもとても良かった。


8. バイオレント・ナイト
ホーム・アローン」と「ダイ・ハード」と「Mr.ノーバディ」を足して捏ねた感じのエンタメ傑作でした。クリスマスシーズンを外しているのでヒットはしないだろうけど数年後に午後ローで放送されて大当たり扱いされるタイプの作品ですね。仕事に疲れた泥酔やさぐれサンタクロース(本物)が今年でもうやめようと最後の仕事に向かった家で強盗と鉢合わせしてその家の小さな娘トルーディに頼まれて一家を救うことになってしまうがサンタは丸腰。肉弾戦で一人ずつ倒していくが限界がある。そんなときその日の朝に「ホーム・アローン」を見ていたトルーディは屋根裏部屋に罠を仕掛けて、という物語です。人(サンタ)として終わってる者がピュアな子供に絆されて失いかけていた大切なものを取り戻すというありがちなプロットに余計な味付けをしないでわかりやすいキャラクターの噛み合わせがハマっているのでどこを切り取っても楽しい作品ですね。狙われた家のお家騒動に絡む歪んだ親子愛もよくあるタイプで良い意味でまったく期待を裏切らないので安心して見られる。「ジョン・ウィック」や最近だと「ザ・メニュー」のジョン・レグイザモが悪党というのも最高。


9. FALL/フォール
冒頭のクライミングの映像で玉ヒュンしまくりました。クライミング中の事故で恋人を亡くしたベッキーは一年経ってもふさぎ込んでいたので親友のハンターが元気づけようと解体が決まっている600メートルのテレビ塔に登ることに誘いビビりながらもてっぺんまで登ったら最高の景色が広がっていていろいろ吹っ切れたので帰ろうとしたらハシゴが落ちて絶体絶命という物語です。で、ここに親友とはみたいな話も盛り込みつつ最後のタネ明かしもあったりで限定的なシチュエーションでも飽きることなく見られてなかなか面白かった。ただ、鶏の生肉はヤバそうだよな……


10. バビロン
豪華絢爛な作品でした。ただ、パートごとではとても面白い部分が多いものの全体を通すといまいち乗り切れなかったという感じ。熱狂、狂乱、乱痴気といった要はパリピがほんのり苦手という私の陰キャ特有の性質にたどり着く感じですね。映画業界がサイレントからトーキーに劇的な変化を遂げるときの役者たちの適応や制作側の技術的な問題などはとても面白い。特にサイレントでは役者の声が必要なかった、トーキーでは声も評価される、という当たり前なんだけど特に気にせず映画を見てきたトーキー世代には新鮮でした。末端から夢を駆け上がるマニーとネリーの姿は魅力的でハッピーエンドにはならなくても彼らがいたからこその今の映画界だと思うといろんな感慨が押し寄せる。サイレントからトーキーという映画史を変えた物語を描いた本作の最後に、同様に映画史を変えた作品の実際の映像が流れていきます。私がわかる作品はそれほど多くはなかったけどこうした作品たちの功績によって今があるというのはグッとくる。ただ、ひねくれた見方をすると「こうすれば映画ファンは喜ぶんでしょ」という感じにもなるのがこのシーン以外にも多いので、良くも悪くもあざとい作品だなという感想ですね。

町山智浩氏による引用作品の紹介

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11. 金の国 水の国

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なんとなくスルーしそうなところにこのまとめで面白そうだったので観てみたらとても面白かったです。観てよかった。金の国アルハミトは商業の要衝で豊かだが水資源の枯渇が喫緊の課題、水の国バイカリは自然が豊かだが自然しかなく生活水準は低い。互いの資源の簒奪を企て一触即発の二国間で先代の王の勅令によりアルハミトで一番美しい娘をバイカリへ嫁にやり、バイカリで一番賢い男をアルハミトへ婿にやることに。アルハミトの凡庸な顔立ちの第93王女サーラとバイカリのお調子者男ナランバヤルがちょっとした手違いと偶然の出会いにより偽りの夫婦を演じることになる。という物語です。「ふり」から本気になっちゃうパターンねハイハイと思いかけますが相手のことを知るたびにひとつずつ気づいていくという過程をとても丁寧に描いているため出会って2秒でビビッと来たみたいな感じではなく好印象です。アルハミトのお飾りイケメン左大臣とナランバヤルが意気投合して動き始める展開は都合良すぎるんだけど若者が社会を動かすのは夢があるのでこれでいい。第1王女レオポルディーネとサーラの関係がシンデレラみたいでここだけ腑に落ちなかった。レオポルディーネの苦悩も描かれるんだけどサーラに嫌がらせする理由になってないというか。アルハミトの影の者ライララや勇敢な兵士、バイカリの豪胆な女や男色族長など脇役も個性的でおもしろい。てな感じでスルーしなくてよかったー。

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12. 対峙
高校銃乱射事件の被害者家族と加害者家族による対話を描いた作品です。加害者側が傲慢に見えるんだけどだんだんそれが変わってくるのがヤバい。何も言えねえ。事件が起きるたびに好き勝手にコメントしてる連中(←俺だよ!)は観たほうがいいと思う。


13. アントマン&ワスプ:クアントマニア
前作がどんなんだったか忘れちゃったんだけど今作はわりとエンタメに振り切った感じでひたすら楽しかったです。エンドゲーム後の世界で平和に暮らしていたスコット・ラングの家族は娘のキャシーが発明した量子世界を観測できる機器のせいで妻ホープとハンクとジャネット全員で量子世界に引きずり込まれてしまいそこはジャネットの因縁の相手カーンが征服する世界だった、という物語。今回大活躍するキャシーがひたすらかわいい。「名探偵ピカチュウ」、「ベン・イズ・バック」、「ザ・スイッチ」も素晴らしかったキャスリン・ニュートンがこの先も楽しみですね。宿敵カーンはサノス並みに強いかと思いきや謎の念力を大事なところで使わず肉弾戦になるなどの間抜けっぷりで正直もっと無双してほしかった。まあ本作が始まりという位置づけっぽいので次に繋げる噛ませ犬ポジションみたいでしたね。今回の災禍の元凶ジャネットはさっさと説明しろやババアというQのミサトさんに対する感情のようなものが生まれかけますが自重しました。次回作はバック・トゥ・ザ・フューチャーPART2らしい(←おい)ので楽しみですね。


14. 呪呪呪/死者をあやつるもの
ゾンビ映画ってまだまだバリエーションがあるものなんだなあ。という映画でした。私はゾンビ映画に詳しくないんだけど少なくとも私はこんなゾンビ映画を初めて見た。ゾンビが全力疾走するようになってからだいぶ経ちますがゾンビがフルコンタクトの格闘技で襲いかかってくるのがめちゃくちゃカッコいい。貧困層を集めて違法な治験を行い数百人の死者を出した製薬会社に被害者親族の呪術家が被害者たちを呪いで蘇らせ製薬会社トップに差し向ける物語です。開始数分でヤベー感じ満々で期待してその後も期待通りで満足。途中で日本の四国が出てくるんだけど霊場的なことなんだろか。あと冒頭の空撮でビルの屋上が全部緑色だったのは韓国ではそういうもんなんだろか。そしてラストシーンは謎。何を意味するんだろあの文字は。


15. 別れる決心
ライミング中の事故で死んだ男の捜査検証してたら男の妻ソン・ソレに惚れちゃった既婚男刑事ヘジュンの人生がぶっ壊れる物語です。初っ端からソン・ソレのペースでそりゃ落ちるわと思いながら見ていたおっさんは私です。化粧っ気がなく華やかな印象はないのに素材の良さが漏れ出てしまっていて謎感を纏っている女なんてたいていの男は落ちますよ。ソン・ソレへの気持ちと彼女の夫殺害疑惑の間で葛藤するも刑事の誇りですべてなかったことにしてふたりは別れる。そしてヘジュンは不眠で病み都落ち。ソン・ソレの妖艶さとに加え朦朧としたヘジュンによって現実なのか幻なのかという映像がゾワゾワする。ソン・ソレはなぜ再びヘジュンの前に現れたのか。ラストの海岸での行動はなかなか斬新だった。私も将来的にはああしようかと思うほど。ちなみにソン・ソレは中国生まれで韓国で嫁いだので韓国語が上手くないという設定で感情が昂ぶる場面などではスマホの翻訳機能を使い中国語で話してスマホから韓国語音声が流れることで会話するんたけどこの冗長感というかもどかしさが効果的で物語の核にもなっていて面白い。ヘジュン役のパク・ヘイルが谷原章介に見えた。ソン・ソレ役のタン・ウェイは誰かに似てる気がするんだけどはっきりしないんだよなあ。とはいえめちゃくちゃ美人。元アイドリング!!!小泉瑠美に似てる気も。


16. 逆転のトライアングル
乗り物酔いしやすい人は観ないほうがいい映画です。モデルのカップルが豪華客船クルーズに参加したらクソみたいな金持ちだらけで船長はアル中で仕事放棄してたらめっちゃ揺れて食事中の客はマーライオン状態でトイレは逆流してゲロウンコ祭りで海賊に襲撃されて爆発して無人島に漂流してそんな状況でも秩序を保とうと船員が指揮を取ろうとするもサバイバル能力は無く唯一自力で魚を捕獲して火をおこして生き延びる術を持っていたのはトイレ清掃のおばちゃんだったのでおばちゃんの天下が始まるという物語。極限状態での情勢の見極めは重要ですね。ジェンダーロールや貧富の格差が大好きなはてなーにぴったりの作品です。最近バズっていた「奢り/奢られ問題」も出てくるのタイムリーですね。誰であれできる限り平等に接したいと思ってるけど平等に接することでキレる人種もいるのでこの世界は地獄だ。ラストシーンのモデル女クソワロタ。とりあえずH&Mの笑顔でバレンシアガに凸したい。

 

ではまた3月分で。

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