ネットに影響される人の日記

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影響されたり、観たり、聴いたり、食ったり。

8. KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『掃除機』

www.kaat.jp

■作
岡田利規
■演出
本谷有希子
■音楽
環ROY
■出演
家納ジュンコ、栗原類山中崇環ROY、俵木藤汰、猪股俊明、モロ師岡
■会場
KAAT 神奈川芸術劇場

 

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引きこもりの50代娘、無職の40代息子、80代の父親が暮らす家の情景を「掃除機」の目線から描く本作では、日本のみならず世界的な社会問題として露わになってきた8050問題をテーマに、掃除機・デメの視点から、ある一家の日常ととある出来事が描かれる。

 

引きこもりの50代娘(家納ジュンコ)、無職の40代息子(山中崇)、80代の父親(俵木藤汰、猪股俊明、モロ師岡)、無職の40代息子の元同僚(環ROY)、掃除機(栗原類)、役者ってすげえなという小学生並みの感想しか出てこないんだけどすげえもんはすげえ。きっかけは何だったのか、どん底にいる50代娘はやり場のない叫びをあげてモノに当たる。おまえのせいだ。おまえのせいだ。這い上がろうとしても滑り落ちる。40代息子は父の言葉か聞こえているのかいないのか、今日も出かける。仕事ではない。公園のベンチ、ショッピングモールの休憩スペース、毎日同じ場所では怪しまれるのでそうした場所のレパートリーがたくさん必要だ。80代の父親はかつて引きこもり始めた娘への初動を間違えたことを悔いているのか。俺のせいじゃない。俺のせいなのか。息子の元同僚はその職場を数日で辞めた。だってクソだから。例の物流倉庫のピッキングだ。クソなのだから辞めるしかない。しかしクソなのがわかっていながらそんなものだと自分を騙して足を踏み入れた自分がクソだ。ある日、息子は出かけたまま帰らず元同僚がこの家へ転がり込みこの家を無責任に引っ掻き回す。まあ責任なんてないしね。無責任なポジションでこそ見えることがある。こうしたこの家の出来事をすべて見てきた掃除機はしかしこの家のことしか知らない。この家から出たことがないのだ。一方で世界中を旅する掃除機だっているかもしれないのに。はたしてそんな可能性はあったのだろうか。この家には。という物語です。見応えありすぎて体が重くなる。フジテレビの「ザ・ノンフィクション」の中でも重たいやつを濃縮したような感じ。どの役柄・役者も素晴らしかったが特に次の2人が強烈だった。引きこもりの50代娘(家納ジュンコ)の不安と怒りと諦めの表現が物凄くて突き刺さる。行き止まりとはこういうことかと。無職の40代息子の元同僚(環ROY)、本作の音楽担当の環ROYがBGMやSEをコントロールしながらそのまま舞台に出てフロウをかますかの如くひとり語り。時に床を激しく踏みつけ観客を威圧するような怒気を見せる。最前列ど真ん中で寝てたおっさんが飛び起きてワロタ。とにかく環ROYの独壇場といった感じで当て書きかと思うほど。実際に台詞は共同で作ってんじゃないかなあ。失礼ながら役者としてもラッパーとしても環ROYという人を知らなかったんだけど本作は環ROYを見ることができたことに価値がある。決して楽しい作品ではないけど観てよかった。先日のアカデミー賞を席巻した「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」に通ずるものがあるかも。

 

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