大正末期、資産家の松成千代吉の屋敷に身を寄せた女流作家、 お勢(倉科カナ)がいる。
その屋敷には、千代吉の娘(福本莉子)と住み込みの女中(江口のりこ)、そして千代吉と小姑(池谷のぶえ)からの圧力に苦しむ後妻(大空ゆうひ)がいた。
ある日、千代吉に屈辱を受けた代議士(梶原善)は、 後妻と結託し、松成家の財産をすべて奪い去ろうと、千代吉を狂人に仕立て上げる計画を練る。
女中、精神病院の医院長(正名僕蔵)、貧しい電灯工事夫(堀井新太)らを巻き込み、首尾よく進むかに見えたが、第一の殺人がおき、計画は思わぬ惨劇へと突き進むーーー
■原案
江戸川乱歩
■演出
倉持裕
■音楽
斎藤ネコ
■出演
倉科カナ、福本莉子、江口のりこ、池谷のぶえ、堀井新太、粕谷吉洋、千葉雅子、大空ゆうひ、正名僕蔵、梶原善
■会場
世田谷パブリックシアター
コロ助で中止となった2年前の公演の再演ではなく初演。出演者も不思議な感覚だろうねえ。ゲネプロまでやって中止決定からの2年後に再集結。キャスト変更もあり福本莉子の役が2年前は上白石萌歌だったそうな。というわけで本作、資産家の金を巡る各人の思惑の一致と不一致、そこに稀代の悪女・お勢(倉科カナ)がほんの少し手を加えるとたちまち全てが最悪へ転げ落ちていくという物語。このお勢の絡み方が絶妙というか実際やっているのは匂わす、仄めかす、唆すといった直接手を汚さない系でこんなクソ女に近づいたら負けなんだけど天性の人たらしっぷりと緻密な策略の前に凡人は為す術もなく。という印象で見ていたら最後にお勢自身が手を下す場面がありこれは驚いた。強い。そしておぼこいように見えて実はお勢に匹敵するヤバさを秘めた晶(福本莉子)、ピュアに見えるぶん余計にたちが悪い。これも近づいたら負けだ。本作唯一のコメディリリーフ・女中ますみ(江口のりこ)がハマり役でめちゃくちゃ面白かった。すっとぼけてるようでこの女もかなり強か。圧巻は千代吉の後妻(大空ゆうひ)、美しさと強さと弱さを兼ねた難しい役どころを見事に演じきっていてかっこよかったなあ。この作品、基本的に女がみんなヤバい。金に目が眩んで落ちていくのは男たちも同様なんだけど、毛色が違うんだよな。個人の見どころをあげるときりがない。ラストにお勢の知られざる真実が明らかになったので、まだ続くんだろうな。しかし前作「お勢登場」では黒木華、今作では倉科カナと、強烈なキャラクターであるお勢のキャスト変えているので次作も別人となるんだろうか。おもしろいけどもったいない、もったいないけどおもしろい、複雑だ。とはいえ楽しみ。ひとつだけ贅沢言わせてもらうと、展開があまりにもベタというか2時間ドラマで散々見たパターンというかもう少し捻りがあってもいいのかなあなんて。まあ原案が原案なのでその物言いは逆だろという感じもあるんだけど。そういや以前倉科カナが出ていた作品も世田谷パブリックシアターだったな。この人、テレビではあまり印象が無かったんだけど良い役者だな。本作出演者のコメント動画があるので見たんだけど世田谷パブリックシアターのチャンネルに他の作品のも結構あっておもしろかった。こういうのは他の劇場や作品でもどんどんやってほしいな。
終演後に江口のりこ、梶原善、大空ゆうひによるアフタートークがありました。意外にも江口のりこはこういうのが初めてらしく、しかも回し役にさせられたそうで、本人のキャラも相まって観客大爆笑でしたね。いやーおもしろかった。
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